黒猫
春、生み捨てられた子猫たちが増える季節。
その子猫たちは駅の線路沿いの木の植え込みに住み着いていた。
茶色のトラ縞と真っ黒な子猫。
二匹はとても仲良しで、じゃれあう仕草は愛らしく、
ノラ猫ではあったが、駅を通る人たちが
えさをやったりなでたり、結構かわいがられていた。
ほっこりとした小さな丘のようになった草の上で、
小さな黒いかたまりみたく寝そべっている後ろ姿は、思わず見入ってしまうくらいかわいかった。
こんな春の日が永遠に続けばいいのに、と思った。
秋になって、二匹はずいぶん大きくなった。
好奇心旺盛で、徐々に行動範囲が広まっている。
ここは駅前で、車の交通量が多い。
おまけに線路の側だから、電車にも注意しなくてはならない。
たぶん、そんな子猫たちをはらはらして大勢の人が見守っていたろう。
だがとうとう悲劇は起きた。
線路の前で、黒い猫のほうが車に轢かれて死んでいた。
正視できなかったが、腹を轢かれていたと思う。
見開かれた目、口。
道路に飛び散った真っ赤な血と、黒い黒い塊。
後に残った茶トラの猫は、オスだったが、とても細いかわいい声で「みゃー」と鳴く子で、
黒い子よりも人になついていた。
それだけさみしがりだったに違いない。
黒い子がいなくなって、とてもさみしそうだった。
最初のうちは、なんとなく探しているようにも見えた。
だがその子は永久に独りぼっちになってしまった。
それは冬のある夜だった。
いつものように駅を出て、ふと、いつもその猫のいる木のあたりを見た。
すると、茶トラの子の傍に黒猫がいるではないか。
ぼさぼさで、目だけが鋭く光っている。
私は何度も見直した。
まさか、あの子じゃあるまい、きっと他の黒猫…。
だが
その黒猫の恐ろしげな様子は、死んだ子が蘇ったのでは?と思わせるほど異様だった。
それは、横に静かに丸まっている茶トラの猫とは明らかに違っていた。
冬の強い風が吹いて、黒猫の毛をますます逆立てる。
猫は「しゃーっ」と尖った牙を見せた。
それでも私はうれしかった。
茶トラの猫は、今だけは独りぼっちじゃない。
たとえ黒猫の幽霊でもうれしいに違いない。
「よかったね。」私は小声で言って通り過ぎた。
それから次の春までは、茶トラの猫は独りだった。
それ以降、一度も付近で黒猫を見たことはない。
だがその茶トラの猫も死んでしまった。
電車に轢かれてバラバラになった。
私が通りかかったのはもう夜中だったので、それが茶トラの猫であると断言はできないが、
私の目に映ったのは
肉球をこちらに見せた猫の手が一本、線路の上に転がっている様だった。
それ以来、茶トラの猫も見ない。
二匹はまた、寄り添って転がっているだろうか。
あのいつかの春の日のように。